【ごめんなさい。俺の運命の恋人が超絶お怒りです。2巻】創作中

2巻の冒頭

1巻の続き五章の冒頭です

五章

 サージェルタ王国、王城。
 ライツ・ルザハーツが救世主の少女を連れてルザハーツ領へ帰ったその日の夕刻、異世界召喚の知らせを受け、アレンジア領から馬車で駆けつけたルーシェ・アレンジアが登城した。

「ルーシェ!」
 玉座の間で国王ランドルフに挨拶をすませたばかりのルーシェの元に、王太子レディルが姿を見せた。
 婚約者であるレディルを視界に入れたルーシェの顔が微かに顰められる。
 ルーシェは王城に到着した時点でアレンジア家の手の者から報告を受けていた。
 異世界から召喚された救世主の少女にレディルが暴言を吐き、救世主の不興を買ったということを。
 そして、その救世主が姿を消し、未だ行方不明のままだということを。
 実際はライツが見つけ出していたので、未だ行方不明というのは嘘だ。
 しかし国王はライツに言われた(脅された)通り、救世主の居場所を公にしていない。
 現在、表向き救世主に関して箝口令が敷かれている。
「……ルー」
 レディルは不機嫌なルーシェの表情に気づき足を止めた。
 そんな二人を見て国王が声をかける。
「レディル。国の非常事態というべきこの時だからこそ、王太子として婚約者と二人きりで話さなければならないこともあるだろう」
「……はい。ありがとうございます、父上」
 今は王太子の仕事よりも婚約者へのいいわけを優先して来いということだ。
 一礼したレディルはルーシェへと近づき左腕を差し出した。
 ルーシェは無言でその腕を取り、レディルのエスコートで二人は退場した。

 無言のまま防音の魔道具が置かれた部屋に入室し、向かい合う二人。
 ルーシェの持つ閉じた扇子の先端がレディルの目の前でピタリと止まった。
「……どういうことでしょうか? レディル様?」
 ルーシェの冷たい視線に、レディルは一歩後退した。
「……あの、だな。ルーシェ」
「二日前、初代国王であるロベリル様が禁止していた異世界召還がこの王城の神殿で行われ、異世界から新たな救世主様が召喚されたと聞きました」
「……ああ」
「召喚された救世主様は、わたくし達と同じ年頃の女性だったとか?」
「そ、そうだ」
「そうですか。……では、その救世主様にレディル様が暴言を吐き、怒った救世主様が姿を隠されたという話も……本当ですの?」
 威圧的なルーシェの眼差しに、もう一歩後退したレディルがゴクリと喉を鳴らした。

 ルザハーツ城。
 ここに異世界から召喚された少女、里上愛那が滞在している。
 朝食前、城の最上階にある神の間へと足を運んだ愛那は、ニコニコとした笑顔で神へ語りかけていた。
「おはようございます神様。とても良いお天気ですね。魔物を討伐するならこんな日が最適だとライツ様に聞きました。私も一刻も早く魔物討伐に参加するため、魔法を使いこなせるよう頑張りますね。…………神様! 私は救世主として神様の期待に絶対に応えて見せます! どうか! どうか安心して見守っていて下さいね!」
 後半はどこか必死さを感じる語りかけではあったが、後ろに控えている愛那の護衛であるナチェルの表情は崩れなかった。 

 愛那がここで土下座をしたのが二日前。
 昨日はルザハーツ家当主リオルートから許可をもらい、愛那はいつでもこの神の間に来られるよう扉の契約者の一人となった。
 勘違いで神様へ暴言を吐いてしまった愛那。
 反省し神様に許しを請う愛那に、事情を知る皆は優しく協力してくれている。

(おじいちゃん、おばあちゃん。元気にしていますか? 愛那は異世界に来て、少し大人になりました。理不尽な思いをしたからと、すぐに感情を爆発させるのは利口じゃないと知りました。もし真実が違っていた場合、とんでもなく後悔することになるから……ッ!」

 神の間を出て階段を下りながら愛那がナチェルへ訊ねた。
「ナチェルさん。私がライツ様と一緒に魔物の討伐に参加出来るのって、どの位先になりますか?」
「マナ様の魔力と攻撃魔法は即戦力になりますので「すぐにでも」と言いたいところですが、魔物についてもう少し勉強していただく必要があります。それでもいきなり騎士団の討伐に参加というのは考えられませんが」
「え?」
 愛那が足を止めてナチェルを見る。
 ナチェルは真面目な顔で答えた。
「危険ですので」
「でも……」
「ライツ様が決めることではありますが、まずは危険の少ない弱い魔物を討伐することから始める必要があると思います」
「なるほど。そうやって徐々に強い魔物も倒せるようになるということですね!」
(そうよね。勇者のいるゲームの世界だっていきなり魔王に挑んだらすぐに死んじゃうわ! 初めは弱いモンスターから! レベルはないけどレベル上げしなきゃ! これぞ王道!)

「……それで、その弱い魔物ってどんな魔物なんですか?」
「そうですね。まずはスライムでしょうか」
 それを聞いた愛那の目が大きく見開き、好奇心にあふれた顔を見せた。
「スライム!」

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