ごめんなさい。俺の運命の恋人が超絶お怒りです。1(21話~30話)

小説
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第21話 幽霊と間違われた!

 ギルド職員が登録の準備が出来たと知らせに来た。
 少年達は背筋を伸ばし礼儀正しくダルサスへと挨拶をして一階の受付へと下りていく。
(うん。よかったよかった)
 愛那が笑顔で彼らを見届けていると、そこに一人残ったダルサスがこちらをジッと見ていることに気づいて顔を固まらせた。
「何だろうな? この気配。ずっと気になっていたんだが」
 ビクッ! 
「気のせいじゃないよな……そこに誰か、いるのか?」
(ひぃぃ! います~。何で分かるの~? 透明なままなのに~。そうか~、冒険者だもんね~。気配を読む能力が高いんだ~。そうか~、実力者ってやつだよね~。かっこいい~)
 顔を強ばらせながら、愛那はじわじわと身体を動かしダルサスのいる方へと向く。
 困惑顔のダルサスが右手で頭を掻きながらこちらを見ている。
「あまり信じたくはないが、いるとしたら幽霊、だよな……?」
(幽霊と間違われた!)
 衝撃を受ける愛那。
 だがすぐにハッと思いつく。
(幽霊と思われてるなら……。教えて! ダルサス先生!)
 しゃがれ声で愛那は言ってみる。
「そなたに訊きたいことがあるのじゃ」
(あるのじゃ……って何!? どういう設定!?)
 自分にツッコミをいれる愛那。
 聞こえてきた声に驚きを隠せないダルサス。
「マジか……。訊きたいこと?」
「そうじゃ……。わしは自分がどんな能力を持っているか分からないまま死んでしもうた。それがどうしても心残りでのぉ」
「お、おぉ?」
「さっきの少年達のような、魔法使いに憧れとった……。だからのぉ、己のステータスを知るにはどうすればよかったのかのぉ?」
「ステータス? 何だそれは?」
(え!? ステータス知らないの?)
「じ、自分の能力を調べる方法を知りたいのじゃ」
「自分の能力を調べる? それは初代国王が持っていたといわれる、幻のスキル【鑑定】のことか?」
(【鑑定】が幻のスキル?)

第22話 逃げろ!

「ま、……幻のスキル?【鑑定】が?」 
(知ってる。【鑑定】って、あれよね? 調べたい物のステータスを見る能力だよね。幻ってことは、今この世界に【鑑定】を使える人はいないってこと?)
(え~? ステータスも鑑定もないなんて困る! レベルアップとか、異世界ファンタジーのお楽しみでしょ~!)
 ショックを受ける愛那。
 ダルサスが見えない幽霊に続けて話しかける。
「あなたはどういう人生を送ってきたのか。こんな常識的なことを知らないなんて……。己の持つ才能を探し、能力を伸ばすためにある教育施設、学校へ行っていなかった……ということになる」
 ギクッ!
「び、病弱だったのじゃ……。ベッドで過ごすだけの人生じゃったのじゃ」
「それは……気の毒に」
 信じた!?
(うああ、同情されちゃった! 嘘ついてごめんなさい~!)
 ダルサスの眼差しに心をえぐられ、頭を抱えながら心の中で謝罪する愛那。
「ま、魔法攻撃のやり方を教えてくれんかのぉ? 一度だけ試してみたいんじゃ、試してみてダメなら諦めて成仏出来ると思うんじゃ……」
「魔法を?」
「風……風魔法がいいのぉ。あの石は魔法を吸収するんじゃろう? わしも少年達のようにやってみたくなったんじゃあ」
(炎は火事になったら恐いし、水は水浸しが恐い。最初に試すなら風よね)
「風魔法か……俺も使えるが、やり方って言われてもな……。普通は無理ですよ? まれに才能が高く、魔法を最初から使える者もいるが……」
「いいんじゃあ~。試してみたいだけなんじゃあ~」
(救世主だから才能はあると思うの!!)
 ダルサスが戸惑いながら「それじゃあ」と歩き出す。
「石からこの位の距離に立って」
 少年達が最初試した石から五メートルの距離。
(ありがとう! ダルサス先生~!)
 ウキウキと言われた場所へと移動する愛那。
「手を、前に出して。体の中の魔力を意識する。そして『風よ』と声をかけ、風のイメージを魔力へと混ぜ込み、掌から……放つ!」
 ゴォオオウ!
 石が光る。
「なるほど……。手を前に出して、魔力を意識し……風よ!」
(風をイメージ!)
 愛那は目を閉じ、渦巻く風と魔力を混じり合わせる。
「放つ!」
 ゴォォォォッ!!
 ピカァァァァ
「ひかっ……!」
 ダルサスが口を大きく開けて驚いていると、「やったー!」という若い女の子の声が聞こえてきて更に驚く。
(はっ! しまった!)
 愛那は思わず素の声を上げてしまい、慌てて口をふさぐ。
「や、やったのじゃあ。これで成仏出来るのじゃあ。ありがとうなのじゃあ~!」
(逃げろ!)
 愛那は脱兎のごとくその場から逃げ出した。

第23話 運命の恋人とすれ違いました

「ここ、ですか?」
「冒険者ギルド?」
 ハリアスとモランにライツは「そのようだ」と答えた。
【索敵】の地図のハートマークが冒険者ギルドの建物の中で点滅している。
(ここに異世界から召喚された少女、俺の【運命の恋人】がいる)
 冒険者ギルドの看板を見上げライツは思い返す。
【鑑定】が使えると知った子供の頃から、ライツはずっと探し続けてきた。
 人物を【鑑定】すると、最後の神託の所に一言、必ず書かれてあったのだ。

 神託:【この者はあなたの運命の恋人ではありません】

 運命の恋人ではないということは、運命の恋人がどこかにいる、ということだ。
 ライツは最初、自分と将来結婚してもおかしくない家柄の令嬢と逢う機会があれば、魔力の残量が許す限り【鑑定】をして運命の恋人を探した。
 しかし、いつまでたっても見つからない。
 なので捜索範囲を広げた。
 身分問わず探してみた。
 それでも見つからない。
 年齢の幅を広げてみても、見つからない。
 この【鑑定】でライツがずっと恐れていたのは、性別年齢に構わず鑑定の相手が人間であれば、必ず最後に【この者はあなたの運命の恋人ではありません】と書かれてあることだった。
 己の結婚相手として想像もつかないような、同性であったり、親世代祖父母世代の者であったり、性格がどうにも好ましく思えない者だったり、犯罪者であったり、運命の恋人を探す以外の目的で様々な相手を【鑑定】してきた時に、最後の一文を読む恐怖。
 おそるおそるライツはそれを確認し、何度も安堵し続けてきた……。
「神様、俺の運命の相手が誰なのか教えて下さい」
 いいかげん降参する思いでそう願ってみても、神託には【いつか出会えます】と書かれるのみ。
 ようやく知ることの出来た今日(異世界にいるならいると教えてくれても……)と、思いもしたが、神様相手にそんな恨み言を言ってもしょうがない。
(長かった……。ようやく会うことが出来る。探し続けてきた俺の運命に)
 ライツは入り交じる緊張と高揚を落ち着かせ、冒険者ギルドの中へと足を進めた。
【索敵】の地図を確認する。
 二階にいる。
 階段へと進むライツと後ろに続く二人。
 三人の引き締めた表情が崩れたのは階段を半分上った辺りだった。
 ドダダダダダダ!
 と、何かがすれ違った。
 何の姿も見えなかったが、明らかに何かが三人の横をすれ違ったのだ。
「は?」
「何だ今のは?」
 ハリアスとモランが声を上げる。
 ライツは慌てて振り返った。
 何も見えない。
 が、【索敵】のハートマークは急激にここから移動していた。
(一瞬だけ、俺の手の届く位置に、俺の運命の恋人がいた)
 まったく姿は見えなかったけれど……。

第24話 こんなことがありまして。

「ライツ様? ドーバー伯爵とモラン殿も?」
 ダルサスが二階から階段にいるライツ達へと声をかける。
 ライツが顔を上げて微笑する。
「ダルサスか、久しぶりだな」
「お久しぶりです」
 一礼するダルサス。
 三人は階段を上りダルサスと向かい合う。
「この時期に冒険者ギルドにどんな御用が? 何かありましたか?」
「あぁ。そうだな……」
 言葉を濁すライツ。
「それよりダルサス。先程までここで何をしていた?」
「何……をと、おっしゃいますと?」
 ぎこちない応えになってしまったのは、幽霊に魔法を教えていたと正直に話して信じてもらえるとは思えなかったからだ。
(俺だって当事者じゃなければ絶対に信じない!) 
 心の中でそう叫んだダルサスは、こちらをジッと見続けるライツへ戸惑いながら答える。
「攻撃魔法を使う少年三人の、登録のための実技試験をしていました。全員無事合格して……」
「その後は? 何か変わったことはなかったか?」
「変わったこと?」
「先程、階段を上っていた俺達の横を、目に見えない何者かが通り過ぎていった」
 そこでライツは側近二人に視線を投げ「そうだな?」と問う。
「はい」
「すごい勢いで通り過ぎていきました」
 ハリアスとモランが答える。
 ダルサスは目と口を見開き驚いてみせる。
「……階段を下りていった? どこで成仏するつもりだ?」
 疑問が思わず声に漏れた。
「は?」
「え、あ! いえっ!」
 慌てて取り繕おうとするダルサスにライツが問う。
「誰かがいた。おまえはそれに気づいた。それで? 何があった。詳しく話せ」
 真剣なライツの瞳にダルサスは気持ちを改める。
「信じてもらえないかもしれませんが、実は……先程こんなことがありまして」

第25話 俺が捕まえる。

「姿を消すことが出来るとは……」
「城の者達がいくら探しても見つかるはずないですね」
 ダルサスに幽霊のことを口止めし、三人は冒険者ギルドを出た。
 地図のハートマークはこの場所から遠くない。
 それも、移動せずその場所に止まっている。
「こっちだ」
 足早に歩くライツの後を二人は追う。
「しかし、困りましたね。姿が見えず、攻撃魔法を使う相手なんて、敵に回したら恐ろしいですよ」
 ハリアスに同調するように「そうですよね」とモランが頷く。
「しかも救世主様を相手にとなると、気配を頼りに攻撃して対応するわけにもいかないし……」
「お前達は何もしなくていい」
 ライツが前方から視線をそらさず続ける。
「俺が捕まえる」
 ライツが【鑑定】スキルを持つということはハリアスとモランに知らせていたが、称号の【強き者】や、神託の【運命の恋人】については伝えていなかった。
 伝えるのは彼女を捕まえて、落ち着いて話す時間が出来た時でいいだろうと考えていた。
 異世界から召喚されたばかりの少女は、こちらの世界のことを知らない。
 ダルサスに、己の能力を調べる方法について訊いたということは【鑑定】持ちではないということだ。
 攻撃魔法の使い方を訊いてきたということは、それまで攻撃魔法を知らなかった。
 だが、それを教えたらあっさり一発で使うことが出来たらしい。
 さすがは救世主!
 と、今の状況では感心もしていられないのだ。
(俺に、彼女の心を捕まえることが出来るだろうか?)
【運命の恋人】だから大丈夫などと、そんな単純な思考にはとてもなれなかった。
 ライツは子供の頃から【運命の恋人】探しをしていたので異性と付き合ったことがなく、特別な女性を相手にどうしたら心を開いてもらえるのかと不安になった。

第26話 鑑定!

 日が沈む前に捕まえたい。
 異世界に一人、心細いであろう彼女のためにも失敗は出来ない。
 ハートマークが示しているのは、噴水広場のベンチ。
「あそこのベンチにいる」
 ライツの言葉に側近二人がジッとその場を見るが何もない。
「……やはり視覚では無理そうですね。違和感のかけらもない」
「近づけば気配を感じることが出来るでしょうが」
「必ず捕まえる。モラン、馬車の用意を」
「はっ」
 命じられたモランがこの場を去る。
「ハリアスはここで待っていてくれ」
「わかりました」
 ライツは数歩ベンチへと近づき、いったん歩みを止めた。
(情報は多い方が良い。見えない相手に出来るかわからないが……)
 ライツは試してみることにした。
 ベンチに座っているであろうそこを見据えて。
(鑑定!)

 名前:マナ・サトウエ
 性別:女
 年齢:17
 体力:750/800
 魔力:999800/1000000
 称号:【異世界からの召喚者】【運命の恋人】
 スキル:【言語理解】【透過/30】【風魔法】

(出来た!)
 拳を握るライツ。
(マナ……俺の運命の名はマナ。17歳の女の子か)
 フッと笑みを浮かべるライツ。
(……ちょっと待て。体力は普通だが、魔力が桁違いだな!?)

第27話 えっと、ごめんね?

 ライツが過去、魔力について【鑑定】で確認してきた平均がある。
 一般の者が500前後。
 魔法使いが1200前後。
 騎士団に入団している者は2000前後。
 魔力は生まれた時の数値からそんなには変動しない。
 限界まで魔力を使うと数値が上がっていくことがわかった。
 ライツが初めて【鑑定】で自分の魔力を確認した数値が30000。
 現在が35000で5000増えた。
 初代国王の血筋である王族の魔力は高い。
 今生存している者の中で一番高い数値を持つのがライツだ。
 そのライツが唖然とするほどの数値。
(1000000……とんでもないな。魔力切れの心配がいらない。まさしく救世主、だな)
【言語理解】は初代国王も持っていたスキルだ。
 異世界召喚された者に神が与えたスキル。
 異世界であれば言語が違うのは当然。
 話すことも聞き取ることも文字の読み書きも不自由がないという。
 召喚した者にも召喚された者にもありがたいスキルといえる。
(【透過/30】これが姿を消すスキルだろう。【風魔法】は先程覚えたばかりのはずだから、召喚される前に彼女が持っていたスキルはこの【透過】のみ? これだけの魔力を持ちながら?)
 とりあえず【透過】以外にやっかいなスキルは持っていないことに安心した。
 ライツは称号の【運命の恋人】を最後に見つめ【鑑定】を終了させる。
【索敵】は移動されたら分からなくなるのでそのまま。 
(そういえば、最後の神託がなかったな。……運命の恋人に出会えたから?)
 一息吐いて歩き出す。
 ベンチの後ろから。
 気配を消して、ゆっくりと。
 すると突然。
「どうしよぉ……」
 聞こえてきた女の子の声に足を止めた。
「困ったなぁ。冒険者ギルドがダメならどこで稼げばいいのよぉ」
 姿の見えないベンチの方から聞こえてくる。
(もしかして、彼女が冒険者ギルドにいたのは、冒険者になってお金を稼ぐためだったのか?)
「お腹すいたよぉ、今日どこで寝ればいいのよぉ……」
 すん。と鼻をならす音と、切ない声にライツが己の口を掌で覆った。
(か、かわいい……じゃなく! 申し訳ない!)
 ライツが足早に近づく。
 そしてそこに座っているだろう相手をベンチの後ろから抱きしめた。
「!?」
「……えっと、ごめんね? 捕まえた」

第28話 卑怯だと思うの!

 冒険者ギルドから逃げて再び噴水広場のベンチへと戻った愛那は悩んでいた。
 冒険者登録が出来ないことは残念だったが、攻撃魔法が使えるようになったことは収穫だった。
(だけど、ファンタジーな異世界のくせにステータスが無いなんて詐欺だわ……)
 それよりも、これからどうしたらいいのかわからない。
 冒険者ギルドに行った一番の目的はお金を稼ぐためだった。
(衣食住のためにはお金。お金がいるの! ホントにもう……)
「どうしよぉ……」
(犯罪者にはなりたくないし……)
「困ったなぁ。冒険者ギルドがダメならどこで稼げばいいのよぉ」
 泣き言を言っていたらどんどん寂しくなってきた。
 家に帰りたい。
 おじいちゃん。
 おばあちゃん。
 お母さん。
 みんな……。
 元の世界に戻りたい。
「お腹すいたよぉ、今日どこで寝ればいいのよぉ……」
 きゅるきゅる。
(あ、お腹が切なすぎて涙が出てきた)
 すん。と愛那が鼻を鳴らしたその時、背後から聞こえてきた足音。
 振り向いて確認しようとしたその前に。
(!?)
 突然、後ろから抱きしめられた。
「……えっと、ごめんね? 捕まえた」
 愛那は硬直し、思考も停止した。
 いやらしさを感じないから嫌悪感はないが。
 若い、男の人?
「マナ。どうか逃げないで欲しい。君と話がしたいんだ」
 少し低音の優しい声。
(何? 誰? 何で私の名前を知ってるの? ていうか! 誰か分からないけど! そのッ……!)
 フルフルと震えだす。
(このシチュエーションで、しかも! 私にその声でその台詞は! ……卑怯だと思うの!)
 愛那は熱くなった顔を両手で覆った。

第29話 お話ししてみた

「えっと……」
 大人しく腕の中にいる愛那にライツは語りかける。
「隣に、座ってもいいかな?」
 知らない優しそうな男の人に抱きしめられているこの状況に愛那は混乱している。
(それは! この状況よりは心臓に優しいですけど! それより……)
「あの……あなたは誰ですか? 何で私の名前を知っているの?」
「俺の名はライツ・ルザハーツ。君の名は……神様におしえてもらったんだ」
「え!?」
(神様? え? 冗談? ううん。異世界だもの。普通なのかも……)
「この世界で、君の名前を知っているのは俺だけだよ。君の居場所がわかるのも俺だけ。マナは俺が守る。マナの保護者は俺だ。神様がそう決めた」
「神様が?」
「うん」
 ライツは愛那から離れるとベンチの周りを移動する。
 愛那は目の前に立つライツを見上げポカンと口を開けた。
(格好いい人……)
 ボウッとしている愛那にライツは左手を差し出した。
「え?」
「手を、繋いでもいいかな?」
「……逃げないように?」
「うん。すぐ捕まえるけどね」
 ニッと笑う。
「安心のために。駄目かな?」
 愛那は少し悩んでおそるおそる手を繋いだ。
 ライツは笑顔を見せ、愛那の隣に座る。
「ありがとう」

第30話 お城には戻りません!

(温かい……)
 繋いだ手の温もりが、一人じゃないと感じさせてくれている。
 愛那はどこかホッとしている自分に気づいて、ハッとして首を振った。
(いけない! まだ信用できる人かわからないのに! 第一、神様が決めた保護者って……)
「いやです」
「え?」
「私は、お城には戻りません!」
 これだけは絶対に譲れない思いで言い切った。
(神様が決めたことでも、あの王子が私の運命の恋人だなんて、絶対に受け入れない!)
「あの王子と、二度と会いたくありません!」
「……そう」
 愛那がうつむく。
 隣に座るライツという青年は、きっと王様の命令で救世主である私を探しに来たんだろう。
(いくらあなたが格好よくても、その声でも、騙されたりしないんだから~!)
 そんなことを思っていたから、しばらくして「わかった」という言葉に「え?」と首を傾げ、愛那はライツの顔を見た。
「マナがそう望むのなら、そうしよう」
「……いいんですか?」
「うん。というか、最初に君には謝っておかなくてはいけないと思っていたんだ」
「あやまる?」
「マナを召喚した王と王太子、特にレディルの奴が君に対し、とても失礼な暴言を吐いたと聞いてね」
「……」
「レディルは俺のいとこなんだ。子供の頃から近い存在でね。身内として謝罪させて欲しい。本当に申し訳なかった」
 ライツの真摯な顔に、彼を疑う気持ちが小さくなる。
「あなたが謝る必要は……ないと思います」
「ありがとう。……けど、もちろんあいつのことは、許さなくていいからね」
 ライツが見えない愛那に向かってニコリと笑う。
 それを見た愛那は、顔を赤くして再びうつむいた。

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