ごめんなさい。俺の運命の恋人が超絶お怒りです。1(81話~90話)

小説
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第81話 掛け合いが楽しい。

(ちょっと意地が悪かっただろうか?)
 今もまだ、姿を消した愛那を抱きしめながらライツは思う。
「マナ。まだ話が終わってないからこのまま話そうか」
「このまま!?」
「だって、俺が安心できないだろう? 姿を消すマナが悪い」
「き、昨日みたいに手を握っていれば……」
「嫌だ」
(このまま抱きしめていたい)
 また腕に力を込めると、「ええ~?」という困惑の声。
 思わずライツは笑顔をこぼした。
(マナとの掛け合いが楽しい。さっきまで不安定だったマナと、心の距離が近づいた気がして嬉しいんだ。……なんて、俺だけが嬉しがってどうする?)
 笑顔が自嘲へと変わる。
 家族や友人もいただろう。
 俺と声がそっくりだという好きな相手。
 その彼らにマナは、二度と会えない。
「ライツ様、怒ってるんですか? 秘密にしなきゃいけないスキルを使っちゃったから……」
 おそるおそる愛那が見当外れのことを言い出した。
(……そうだった。昨日そんな話をしたな)
「怒ってないよ。ここには俺とマナしかいないから」
「誰かに覗かれたりとか」
「大丈夫。スキルで確認しているから」
 ガバッと愛那が顔を上げた。
 見えないが、そうであろうという気配。
 ライツは見えない愛那に問いかける。
「どうした?」
「魔法!」
「?」
「攻撃魔法を教えてください!」
「いきなりどうしたんだ? もちろんマナが望むなら教えるつもりでいたが」
「魔物を討伐しなきゃいけないんでしょう? 救世主としてやることやらなきゃ次に進めない!」
「次?」
 ライツは首を傾げた。

第82話 魔法と魔力の大きさ

 愛那は、意識が魔法のことへ移ったことで、顔の熱さも引いてきた。
 もう大丈夫だと透過の魔法を解く。
 そして姿を見せたことで、抱きしめていた愛那の体を離すライツ。
 温もりが去って、ホッとしたような残念なような、愛那は複雑な気持ちだ。
(この世界の人ってスキンシップが激しいのかな? 嬉しいけど困る)
 ライツを口説くのは救世主として魔物討伐を終えた後だと決めているのだ。
(神様に逆らうなら、結果を出さなきゃ認めてもらえない)
 神様の決めた【運命の恋人】ではない人を好きになったのだから、やることをやらなくては次に進めない。
(急がないと、ライツ様が他の人にとられちゃうかもしれないし!)
 ナチェルさんからライツ様には恋人や婚約者みたいな、特別な女性はいないと教えてもらったけれど、悠長になんかしていられない!
「ライツ様! 今の私でも魔物を討伐できますか?」
 意気込んで訊いてみる。
「マナの攻撃魔法をまだ見ていないからはっきりとは言えないが、マナは風魔法が使えるんだろう?」
「はい。使ったのは一回だけですが。冒険者ギルドでダルサスさんに教えてもらって使えるようになりました」
「ああ。ダルサスから話は聞いた。その風魔法、使えるようになるまでマナは難しいと感じた?」
「難しく……は、なかったと思います。ダルサスさんの言われた通りにしたらすぐに出来たので」
「うん。普通はそう簡単に使えたりはしないんだ。やはりマナの持っている魔力の大きさが関係しているんだろうな」
「魔力の大きさ?」
「マナの魔力はとんでもなく大きい。初代国王の血をひく俺達と比べても、桁違いの大きさだ。この国でマナ以上の魔力の持ち主はいない」
「そ、そうなんですか?」
(それってすごいことなんだよね? さすがは救世主?)
「えっと、だとしたら魔物の討伐って、簡単なのかな?」
 ライツは首を振る。
「マナは魔力は桁違いだが体力は普通だ。魔物のことを軽く考えていたら怪我や命にか関わる。マナ。魔物討伐の際、絶対に一人で行動しないようにしてくれ。もちろんずっと傍にいるつもりだが、不測の事態が起こることもある。君を失うわけにはいかない。頼む」
 ライツの真剣なまなざしに、愛那は真面目な顔で頷く。
「はい。わかりました。気をつけます」

第83話 授業

「攻撃魔法を使える者は魔物討伐時に魔法を使う。その時に大事なのは魔力の大きさだ。魔法を使い続ければ魔力が減り魔力切れを起こす。そうすればその魔法使いは戦うことが出来なくなる」
 コクコクと頷きながら、愛那は授業を受ける気持ちでライツの話を聞いている。
「魔力が小さければ討伐出来る数は少なく、大きければたくさんの魔物を討伐することが出来る。魔物が大量発生している今、マナの魔力が大きな戦力となるだろうことは間違いない」
(ということは、魔力が大きい私は救世主として合格ってことよね)
 少しホッとする愛那。
「じゃあ、一匹でも多く倒すために、私が限界まで魔力を使って魔物を討伐し続ければいいんですね!」
「いや。魔物討伐時に限界まで魔力を使うことは危険すぎる。魔力切れを起こすと、体調が悪くなり、立っているのも辛いといった状態になる。魔力量を増やす方法として、それを行う場合もあるが、それは安全な場所だからこそ出来ることだ。魔力切れを起こして魔物の餌食になるケースも少なくない。本当に危険だから絶対に気をつけて」
 想像して青ざめた愛那がコクコクと頷く。
「攻撃魔法を教えるのはルザハーツ領の俺の屋敷に戻ってからにしよう。あっちにはそれなりの設備が揃ってるから」
「設備って、冒険者ギルドにあった魔法を吸収する石みたいなものですか?」
「ああ、あれもある。屋敷から近い場所にうちの騎士団の魔法使い達が使っている施設もある。あそこなら広い場所で思い切り攻撃魔法を試すことも出来るから、そこを使うのもいいかもしれないな」

第84話 ヘルプ!!

 ライツと愛那が邸内へと戻ると、そこに執事のアルファンが待っていた。
「ライツ様。リオルート様からのお手紙を預かっております」
「兄さんから?」
 手紙を受け取ったライツはその場で封を切る。
 愛那は隣で手紙を読むライツを見守っている。
(ライツ様のお兄様。どんな方だろう?)
 好きな人のお兄さんに嫌われたくないな……。
 そう思ったのをきっかけに愛那はだんだん心配になってきた。
(こっちの世界の礼儀とかマナーとか私わからないから!)
 ルザハーツ領へ行くということは、ライツの両親にも会うということだ。
(あ、明日行くんだよね? 心の準備が! うわ~ん! これって魔物の討伐よりも緊張する~!! そりゃあ今はまだ恋人でも何でもない関係だけど! いつかはそうなれるかもしれないでしょう!? はっ! そうだ! ナチェルさんに相談しよう!)
 ライツへの恋を応援してくれると言ってくれたナチェルは愛那にとってすごく心強い存在だ。
 とりあえず最低限の礼儀作法やマナーなどを教えてもらわなくては。
(ナチェルさん、今どこにいるのかな?)
 今すぐ探しに行きたくてソワソワし始める愛那。
 そこで手紙を読み終わったライツが愛那へと声をかけた。
「マナ、明日は兄の所へ直接向かうことになった」
「えっ!?」
(ナチェルさん! ヘルプ!!)

第85話 学びたいこと

「異世界から来られた救世主様に対し、礼儀やマナーがなどと言う者などおりませんよ?」
 愛那がナチェルに訳を話してお願いしたところ、彼女からそんな答えが返ってきた。
「いえ! それでも最低限でいいのでライツ様のご家族に失礼のないようにしたいんです! お願いします、ナチェルさん!」
 愛那が指を組んで必死な眼差しでそう頼み込むと、ナチェルは「わかりました」と頷いた。
「お任せ下さい。私がマナ様に完璧な淑女の振る舞いをお教えいたします」
「あ……完璧じゃなくてもいいですよ? 最低限で」
 やる気はあるが、完璧という言葉につい怯んでしまう愛那だった。

 そんなこんなであっという間に次の日が来て、現在愛那は馬車の中にいた。
「マナ様、今からそのように身を固くしていては、お体に障ります」
「はっ、つい。そうですね、気をつけます」
 同じ馬車にはナチェルの姿。
 ルザハーツ領までは二時間程かかるらしい。
 その道中の時間を使ってナチェルに学びたいことがあると言えば、ライツは快く受け入れてくれた。
「マナ様は物覚えがよろしいのですから、緊張しなければ大丈夫ですよ」
「あはは」
 物覚えがいいというのは昨日からナチェルに言われていることだ。
 お辞儀の仕方から始まり、何故かダンスの稽古も受けることになった。
 ダンスはこれから先、必ず必要になるものだと言われれば、覚えないわけにはいかない。
 しかも「ダンスを覚えてライツ様をびっくりさせませんか?」と言われれば、気合いが入るというものだ。
 愛那は高校では創作ダンス部所属。
 踊りの種類は違っても、動き良し。振りを覚えることにも長けていた。
 ナチェルが男役となり二人で踊り続けた昨日。
 愛那がナチェルに少しドキッとしてしまっていたというのは内緒の話だ。
(浮気じゃないもん。だってナチェルさん、宝塚の男役の人みたいに凜々しくて素敵なんだもの……)

第86話 御三家

「それでは次に、マナ様にサージェルタ王国について少し詳しくお話しいたします」
 愛那は「はい」と言って背筋を伸ばした。
「初代国王様が異世界召喚される前、この国は三つに分かれていたということはお伝えしましたね」
「はい。仲が悪かった三つの国が、魔物の大量発生という共通の非常事態に協力し合ったという話ですね」
「そうです。その三つの国の王族が現在公爵家として存在します。その一つが今から向かうルザハーツ家です」
「えっ!?」
 思わず声に出して驚く愛那。
「ルザハーツ家、アレンジア家、バリンドル家。この御三家が元王族となります」
「へえ、じゃあライツ様の家系はお父様の血筋だけでなく、元々王族だったんですね。えっと、ルザハーツ家と、アレンジア家、バリンドル家?」
「そうです。ルザハーツ、アレンジア、バリンドル。この御三家の名は確実に覚えておいて下さい」
 愛那は「わかりました」と言って何度もそれを呟き繰り返す。
「ちなみにアレンジア家には、王太子の婚約者、ルーシェ嬢がいらっしゃいます」
「……そうなんですね」
(私なんか足下にも及ばない完璧美女のルーシェ様ですね?)
 神様が決めた運命の恋人(だと愛那が思い込んでいる)からの心ない暴言は、思い出すたびに愛那の目つきを悪くするスイッチと化していた。
 それに気づいたナチェルが「申し訳ありません」と頭を下げて謝罪する。
「えっ? そんな、ナチェルさん」
 愛那が「やめて下さい」と続ける前に、顔を上げたナチェルが真剣な眼差しを愛那に向けて言った。
「しかし私としては、マナ様にはこれから先、アレンジア家よりもバリンドル家に注意していただきたいと思っているのです」
「……バリンドル家?」

第87話 警戒すべき相手

 元王族、御三家の一つであるバリンドル公爵家。
 そのバリンドル家に。
「注意して欲しいって、どういうことですか?」
 愛那がそう訊ねるとナチェルが頷いて話し始めた。
「いい噂が聞こえてこない。といえばそれまでですが、噂という不確かなものだけでなく過去の数々の事例から警戒すべき相手と認識されています」
「認識してるというのは、誰が?」
「少なくとも王家とルザハーツ家では確実に」
(え、王家にも警戒されてるって……)
「一体過去に何をしたんですか? そのバリンドル家って」
「はい。……話はこの国、サージェルタ王国が誕生したことから始まります」

 異世界召喚された男、ロベリル・フォル・サージェルタ。
 大きな魔力を持ち、魔物の脅威からこの世界を救った救世主。
 三つの国の王が彼を君主と認めサージェルタ王国が誕生した。
 その後のこと。
「救世主であるロベリル様と深い結びつきを願うことは当然です。特に元王族の御三家は。その時ロベリル様は二十代の男の盛り。王妃となるべき年頃の女性達がロベリル様の元へと集められた。しかし、その時にはすでにロベリル様はある女性に恋をされていたのです」
「わあ!」
 わくわくとした目で愛那がナチェルの話の続きを待つ。
「のちに王妃となるその女性の名はハイリ。彼女はどの家系にも属さない、神に仕えし女性神官でした」

第88話 受け継がれる精神

「ロベリル様の想いをハイリ様は受け入れました。しかしお二人の仲が表立った時、教会を除き周囲の反応は決していいものではなかった。どこの血筋かもわからないハイリ様は王妃としてふさわしくないという声が上がり、ハイリ様を愛人とし、王妃には御三家の令嬢の中から選んでいただくべきだという……」
 それを聞いた愛那の顔がムウッとして不満を訴える。
「愛人? 一番好きな人を愛人にして、好きでも何でもない人と結婚しろってことですか?」
 ナチェルが頷く。
「当時はそれが当たり前だったのです。それに国王は王家存続のために子をなさなければならない。王妃との間に子供が出来なければ他の女性とつくればいいというわけです。特に魔力の大きいロベリル様のお子様への期待は高かった。夜な夜な女達をロベリル様の寝室へと向かわせ、子供がたくさん生まれるように仕向けていたとも云われています」
 愛那の不満顔が止まらない。
「嫌な話。じゃあ、それを仕向けていたのがそのバリンドル家ってことですか?」
「いえ。この話に関してはバリンドル家だけではなかったでしょう」
 愛那の不満顔に冷えた目つきがプラスされた。
「……そうですか。それで? それからどうなったんですか?」
「それが、ロベリル様はあてがわれた女性には誰一人手をつけなかった。ハイリ様以外を伴侶とする気はない。それが駄目だというなら王などいつでも辞めてやると言い放ったそうです」
 愛那の顔が満面に輝いた。
「ロベリル様のいた世界では、心に決めた相手だけを一生愛し続けることが常識だったそうで」
「素敵!」と言って愛那は指を組んで微笑んだ。
「王を辞められては困ると、誰もロベリル様のお言葉に逆らうことは出来ず、その後お二人は無事結婚されました。……その辺りからです。バリンドル家の黒い噂が立ち始めたのは。ハイリ様の命が狙われ、誕生した王子と縁を結ぶため、ライバルとなる者へ事故を装い怪我を負わせるなどといった妨害。そういったことが他にもたくさん。しかし証拠がつかめず、追い詰めても真犯人を名乗る者がどこからともなく現れ、結局バリンドル家にはなんの咎もないまま」
「……それって本当にバリンドル家が?」
「はい」とナチェルは頷く。
「それは現代まで変わらず続いています。王家にはロベリル様の『心に決めた相手だけを一生愛し続ける』といった精神が受け継がれていて、王家の人間が過去バリンドル家の者を選び繋がりを持つことはありませんでした。バリンドル家は長い間、王家の血をずっと欲し続けているのです」

第89話 いやだー!!

「王家の血をずっと欲し続けて?」
 愛那はゾッとした。
「正確に言えば、王家の人間が持つ大きな魔力が欲しいのです。御三家の中で王家と縁を結ぶことが出来ていないのはバリンドル家のみ。当然そのことも不満に感じていることでしょう」
「なるほど」
 愛那が納得したようにうんうんと頷くと、ナチェルは小さく笑い「マナ様」と呼んで首を横へと振った。
「え?」
「駄目です。もっと危機感を持っていただかなくては。……この話、マナ様にとって他人事じゃありませんから」
「えっ!?」
「まず、バリンドル家には現在18歳の令嬢がいます。名をマリエル・バリンドル。彼女のターゲットの相手はライツ様です」
「ええっ!?」
「そして、こちらの方が重大です。マナ様。マナ様は御自分がどういう存在なのかお忘れですか?」
「え? ええっ!? 私がどういう? ……ッ!?」
 気づいた様子の愛那へナチェルがニッコリと微笑む。
「そうです。マナ様は初代国王ロベリル様と同じ、異世界から召喚された救世主様でいらっしゃいます。そのマナ様の魔力のことをライツ様は何とおっしゃっていましたか?」
「け、桁違いの大きさを持っていると……」
(ええええ!? 私もそのバリンドル家に狙われるってこと? いやだー!!)

第90話 安心のスキル

「でもバリンドル家に気をつけろと言われても、私は具体的にどうすれば?」
 愛那の問いにナチェルが頷いて答える。
「まず、決して一人で行動しないようにして下さい。ライツ様と私が必ず傍でお守りいたします。けれど確実にお守りするにはマナ様の協力が必要です」
(えっと、常に誰かに見張られてるっていうのは勘弁して欲しいけど、ライツ様とナチェルさんならいいかな? 部屋で一人きりになるのは大丈夫みたいだし、正直よくわからないけどバリンドル家、恐そうだからここは素直に守ってもらおう!)
「協力なら任せて下さい! 全力で守ってもらいますので!」
「……」
 ナチェルのキョトンとした表情に愛那は焦る。
(しまった! 何だか言い方間違っちゃった!)
 間を空けてナチェルがクスクスを笑い出したので、愛那の頬が赤くなった。
「ありがとうございます。安心しましたマナ様」
「い、いえ……」
「マナ様の透過スキル。そのお力を使って姿を消されたら私にはどうしようもないのです」
「え? 私ナチェルさんから逃げたりしませんよ?」
 ナチェルが微笑む。
「マナ様のそのスキルは、恐くもあり、安心できるものでもあります。私にとって恐いのは今お伝えたことですが、逆に安心できるのは、敵にとっても同じということ」
「……そう、ですね。そうか。そういう意味でもこのスキルのことを隠しておくことは大事なことになりますよね」
(もし敵に捕まっても透明人間になって逃げればいいんだから。なんて便利! よし! じゃあ私のことはとりあえず大丈夫!)
 愛那は笑顔で一つ頷く。
(さて……)
 そして急に真顔になった愛那がナチェルへと訊ねる。
「それじゃあ、ライツ様を狙うバリンドル家の令嬢とやらの話を詳しくお願いします」 

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