ごめんなさい。俺の運命の恋人が超絶お怒りです。1(101話~110話)

小説
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第101話 知っている人と知らない人

「それじゃあ私は、ハリアスさんの奥さんであるマリスさんの、遠い親戚という設定なんですね? あの、そのマリスさんはこの城にいらっしゃいますか? お会いしてお話ししないと、すぐに嘘がばれそうで怖いです」
(ハリアスさんの奥さんか。どんな人だろう?)
「いや、すまないマナ。彼女は俺の屋敷で留守を任せているからここにはいないんだ」
 そうライツが告げる。
「あ、そうなんですね……」
(え? それは困る。マリスさんがどんな人なのか全然知らないのに親戚顔なんか出来ないよ)
「マナ。俺がフォローするから大丈夫だ」
 そう声をかけるライツに続いてリオルートが口を開く。
「ハリアスに夫人をこちらに呼んでもらい、すぐに話し合いの席を設けよう」
「そうですね」
 兄弟の会話にホッとする愛那。
 そしてすぐに気合いを入れる。
(私が救世主であることを知っている人と知らない人をちゃんと把握しておかなきゃ! 油断して嘘がばれたら困る!)
 愛那が誰がどちらかと頭の中で整理していく。
「えっと、リオルート様? 奥様には私のことをどのように?」
「あぁ。妻にはマナが救世主であることを伏せておきたいと考えている」
「そうなんですか?」
 ライツが意外そうに言う。
「子供たちにも伏せておかなきゃいけないからな。その方がいいだろう」
(そっか。リオルート様の奥様と子供たちには救世主であることを伏せて、ライツ様の恋人としてふるまうのね……恋人として……)
 頬を赤くする愛那。
(あ!)
 と不意に思い出した愛那。
「あのっ!」
 その声に兄弟が反応する。
「どうしたマナ?」
「あの、お二人のご両親にもご挨拶をしたいんですが、どちらにいらっしゃいますか?」
(ライツ様のお父様とお母様にちゃんと挨拶しておかなきゃ!)
 気合いが入った愛那にリオルートが告げる。
「ああ。すまないマナ。俺たちの両親は今このルザハーツ領にはいないんだ」
「え?」
「魔物の討伐に他の領地へ二人で出ているんだよ」

第102話 紹介

「魔物の討伐……」
「私にルザハーツの当主の座を譲ってすぐのことでね。二人して自由なものだよ。おそらく親しくしている友人が困っていると聞いて、ジッとしてられなかったのだろう」
(お二人のお父様は国王の弟。ということは血筋的にも持っている魔力が大きいんだろうし、頼られてるんだろうな)
「ルザハーツの領地を治めるのは兄さんに。領内に出没する魔物は俺に任せると言って二人で仲良く出て行ったんだ。あれから六ヶ月。ずっと帰ってないんじゃないかな」
「そうだな」
(ということは、私がお二人に挨拶出来るのはいつになるかわからないってこと?)
 気合いを入れていただけに力が抜ける愛那。
「だけど、せっかくマナがルザハーツ領に来ているのだから、一度戻って挨拶するようにと伝言を出そう」
 そのリオルートの言葉に愛那は焦って断る。
「え? やめてくださいっ! この大変な時期に魔物討伐の邪魔は出来ません。私自身も今は魔物を討伐する力を得ることを第一に考えていますので、ご挨拶は大量発生している魔物の件が落ち着いてからで大丈夫です」
「……頼もしいね」
 ニコリとリオルートが愛那へと微笑む。
「それじゃあ両親の挨拶は後回しにして、まずは私の妻と子供たちを紹介するよ」
 そう言って立ち上がるリオルート。
 ライツに促され愛那たち二人も立ち上がる。
「そうそう。二人は恋人になったばかりで、結婚を意識している関係だと紹介するからそのつもりで」
 リオルートにかけられたその言葉に愛那の動きが止まった。

第103話 嬉しい知らせ

 リオルートに案内されて移動した先は子供部屋だった。
 おもちゃで遊んでいた母と子供たちが来訪者たちへと顔を向けた。
「まあライツ様! お久しぶりね」
 立ち上がってニコニコとした笑顔でそう声をかけてきたのはリオルートの妻、サリエリだ。
 彼女の足下に小さな男の子と女の子が寄り添っている。
 リオルートとサリエリの子供、3歳の男の子トルツと、2歳の女の子ティファである。
「お久しぶりです。お義姉さん。お元気そうでなによりです。会わない間にトルツとティファは大きくなりましたね」
 ライツの言葉にサリエリが「子供の成長はあっという間よ」と笑顔で返す。
「まあ、ところであなた」
 サリエリが視線を夫へと移し声をかける。
 その表情は好奇心を隠しきれないわくわくとしたものに見える。
「ライツ様と一緒にいらっしゃるそちらの可愛らしいお嬢さんを早く紹介して下さいな」
 その言葉に愛那がビクッとなる。
(え? 何でそんなに興味津々な感じなんですか?)
「ああ勿論だ。きっと君の想像通りに嬉しい知らせだよ」
「まあ!」
 夫婦でニコニコと笑顔でわかり合っている様子に愛那は戸惑う。
(そんなに喜ばれる嬉しい知らせって、まさか……)
「マナ、紹介しよう。私の妻サリエリと、長男のトルツ、長女のティファだ。サリエリ、マナはドーバー伯爵夫人の遠縁のお嬢さんなのだが、結婚まで慎重に話を進めるために、ライツの希望でしばらくの間マナの家名は伏せることになっているので、訊かないでやってくれ。
「まあ! 結婚!? そこまで話が進んでいるの!? あのライツ様が!?」
「そう。あのライツがだ!」
(えっ? あのライツ様?)
 首を傾げる愛那。
 そして盛り上がっている兄夫婦に、ライツが冷静に「どのライツですか」と突っ込んだ。

第104話 サリエリ様

 リオルートが弟に向かいほがらかに笑う。
「おまえには女嫌いの噂が立ったくらいだから心配していたんだよ」
「そうね。ライツ様は自分の伴侶は自分で決めると断言してらしたから、お見合いを希望するお話をお断りするのも大変だったのよ? だけどようやくこんな可愛らしいお嬢さんを連れて現れるなんて……。そうだわ! 今夜はお祝いパーティを開きましょう!」
(お祝いパーティ!?)
 愛那が驚いているとライツが「やめてください」とサリエリを止める。
 そして愛那の肩へ手を伸ばしそのまま彼女を引き寄せた
(えっ!?)
「正式に結婚が決まるまではマナのことは隠しておきたいんです。誰にも邪魔されたくありませんからね。しかし大量発生している魔物のこともあり、簡単には行かないだろうと覚悟しています」
「そうね。お義父様もお義母様もまだお帰りにならないし」
 サリエリの言葉にライツが頷く。
「実は、マナには魔法使いとしての素質があることが分かり、特訓をして一緒に魔物の討伐に出る約束をしているんです」
「えっ?」
 ライツの言葉に驚いたサリエリが愛那を見る。
(あわわわ!)
「そ、そうなんです。ライツ様と一緒に魔物を討伐して、みんなが安心して暮らせるようになったら結婚しようという約束をしていて……」
(くっ、苦しい。嘘はダメなのに、サリエリ様、ごめんなさい! しかもこの嘘、私の願望が入ってるし!)
「まあ……」
 そう言って頬に手を当てたサリエリが身を寄せ合っているライツと愛那を見つめている。
 そして「わかりました」と真面目な顔で頷いたサリエリが愛那へと歩み寄り、愛那の手を握って言った。
「お二人の邪魔はしないわ。今はまだマナ様の存在は伏せていた方がいいのね? こんな華奢で可愛らしい方を魔物討伐になんてとても心配だけど、応援するわ。何か困ったことがあればいつでも相談にのるから私を頼ってちょうだいね?」
「は、はい。ありがとうございます、サリエリ様」
(ライツ様のおっしゃっていた通り、本当に優しくていい人たち……)
 親身になってくれるサリエリに嘘をついている心苦しさを感じながらも、その彼女の優しさに愛那は心を温めていた。

第105話 部屋

 その後サリエリと子供たちのいる部屋から出た愛那たちは、リオルートの案内で城の中を歩き、最後に愛那に用意された部屋へとたどり着いた。
「マナはこの部屋を使ってくれ。何かあったらすぐに駆けつけられるように隣の部屋はライツが使うといい」
(!?)
「ありがとう兄さん。そうさせてもらいます」
(……ほ、保護者だし、恋人のふりしてるし、一応私救世主だし、意識し過ぎは中止!)
 愛那は表情を固まらせたまま自分の中でそう納得させた後「ありがとうございます」と笑顔で礼を言う。
 扉が開かれ中に入ると広い部屋の中にソファにテーブル、ドレッサーに大きなベッドなどの家具が置かれてある。
 バルコニーにも出られるようになっている部屋だ。
(わ、景色がいい。ここは五階くらいの高さになるのかな?)
 愛那が室内からバルコニーへ視線を向けていると、リオルートが近づいて来て声を潜め「あのバルコニーはライツの部屋とも繋がってるから」と伝えてきた。
(!?)
「兄さん?」
 愛那の表情の変化に気づいたライツが声をかける。
 リオルートは微笑を浮かべ口を開く。
「それじゃあそろそろ私たちは失礼しよう。ライツはまだ話があるから私の部屋についてきてくれ。マナは食事の時間までこの部屋でくつろいでいてくれ」
「はい。ありがとうございます」
 そう答えた愛那にリオルートは笑顔を見せ、その後視線をナチェルへと向けた。
 すぐにナチェルが胸に手を当て「マナ様には私がお側に」と言うとリオルートが頷く。
「任せた。では、行こうか」
 部屋を出て行くリオルートたちを見送る愛那に、ライツが近づき顔を見合わせる。
「また後で、マナ」
「は、はい」
 優しく笑んだライツの手が愛那の頬を撫でてから去って行った。
(ライツ様! 今のは必要でしたでしょうか!?)
 触れられた頬を赤くしてフルフルと震えながら、そう愛那は心の中で叫んだ。

第106話 兄弟

 側近たちを部屋の外に控えさせ、リオルートはライツだけを連れて部屋の中へと入る。
 ちなみにハリアスには妻のマリスを迎えに行かせた。
 モランは愛那の部屋の前で護衛として控えている。
 兄弟二人が入室した部屋の中には壁一面の本。
 大きな仕事机と椅子。
 一人掛けのソファがテーブルを挟んで二脚。
 この部屋は魔道具による防音が施されてあるリオルートの仕事部屋だ。
 二人がそれぞれソファへと腰を下ろす。
「しかし、おまえには驚かされてばかりだな」
 開口一番リオルートがそう言葉を投げた。
「何のことですか?」
 ライツが軽く首を傾げる。
「お前が長い間探し続けていた運命の相手が、救世主様だったことだよ」
「ああ。……それには俺も驚きました」
 ライツが小さく苦笑し言った。
「そうだ。兄さんはハリアスからどこまで話を聞いているんですか?」
「何のことだ?」
「ごまかさないで下さい。俺とマナのことですよ」
 真剣な顔のライツへリオルートが笑顔で答える。
「その話を聞きたくておまえをここに呼んだんだ。女性を振ってばかりだったおまえが、とうとう運命の恋人に出会い、恋に落ちたと聞いてな」
「……そんなに楽しそうにしないで下さい。どうせ聞いているんでしょう? マナには好きな相手がいたってことを」
「ああ。聞いている」
 笑顔のままリオルートが頷いた。
「私にはそうは見えなかったけどな」

第107話 兄弟2

 リオルートの目には、愛那がライツに特別な感情を持っているように見えた。
「さすがは運命の恋人同士。恋人のふりも不自然さは感じなかったしな」
 からかうのではなく本気でそう思ったのだろう兄の顔を見て、ライツは小さく息を吐いた。
「嫌われてはいないと思います。だが、声が……」
「ん?」
「マナの好きな男と俺の声がそっくりだと聞いて、慎重になるべきだと考えました。ただでさえいきなり異世界へ来て帰ることの出来ないと知った彼女は、明るく振る舞っていますが、心の中に不安定な感情を抱えています」
 それを聞いたリオルートは顔を曇らせた。
「……そうか。伯父上が異世界召喚を実施したと聞いた時は驚いた。この国を救うための決断だったのだろうが、さらに召喚した救世主様に嫌われるような言動をとってしまうとは、庇い立てする言葉も見つからない」
「反省はしていましたよ。おかげでマナをこのルザハーツ領へすんなり連れて来ることも出来た。マナが許すと言うまでは、伯父上とレディルには彼女を会わせないと俺が勝手に決めました」
 リオルートがフッと小さく笑う。
「そんなおまえのおかげか、マナは随分とこの世界に協力的だな? 魔物の討伐にもかなり積極的に見えた」
「そうですね。ずいぶんと意欲的で俺も不思議に思いました。マナの境遇を考えれば、この世界に対し非協力になってもおかしくない。だけどそうならなかったのは、ただ単に正義感が強い彼女の性格と、そしてその心根が優しいからだと思いますよ。俺の存在は関係ありません」

第108話 兄弟3

「関係ないというのは違うんじゃないか? マナのおまえに対する態度を見ていればわかる」
 それを聞いてもライツは少し寂しげに微笑むだけだ。
 リオルートはそんな弟を見て(たしかにらしくないな)と思う。
 ハリアスから「ライツ様が初めての恋に戸惑っておられるようです」と聞いた時は常に冷静なあの弟がどんなことになっているのかと楽しみにしていたが、その恋の相手が救世主様となると、無責任に面白がってばかりもいられない。

 ライツは幼い頃から優秀で、子供らしくない子供だった。
 リオルートとライツの年の差は六年。今まで喧嘩など一度もしたことがない。
 本を読むことを趣味にしていたリオルートは博識で、ライツはわからないことがあれば、そんな兄に頼ることが多かった。
 ライツが初代国王と同じ【鑑定】というスキルを持っていることに自分で気づいた時も、唯一頼ったのはリオルートだった。

「ライツ」
 兄に名を呼ばれたライツが「はい」と応える。
「女性の口説き方に困った時は、一応妻帯者である私やハリアスを頼ってくれていいからな」
「……兄さん」
 低音になった弟の声にリオルートが笑みを返す。
「からかったわけじゃない。うまくいって欲しいだけだ。……それと、久しぶりにおまえに頼られるのも悪くない」
 兄の言葉にライツがフッと笑う。
 そして困ったような顔をして見せた。
「…………大丈夫ですよ。ありがとうございます、兄さん」

第109話 バルコニー

 愛那がナチェルと一緒にバルコニーに出てみた。
 リオルートが言っていた、隣のライツの部屋と繋がっているというのが気になって、景色よりもそちらの方が気になってしまう。
(あ、このバルコニーって二つの部屋とだけ繋がっているのね……)
 屋根付きのバルコニーは、共有スペースとなっていた。
 壁際の中央にはテーブルと椅子が二つ並んで置かれてある。
(あそこにライツ様と一緒に座って、たくさんおしゃべりしたりなんかして……)
 そんな妄想をしてソワソワしている愛那にナチェルが声をかける。
「この二つの部屋は、通常ご夫婦のお客様に使用していただいている客室です」
「えっ!?」
 ナチェルの説明に愛那は驚くが、すぐに納得した。
(そっか。恋人設定だし、一応救世主だからライツ様の近くが安全ということね)
「ナチェルさん、お詳しいんですね。この城にはよく来られるんですか?」
「そうですね……。今よりも昔によく。モランと私はライツ様の側近候補としてこの城に通っていた時期がありましたので」
「側近候補……」
「と言っても当時からライツ様には気安くしていただいていたので、友人関係と言った方がいいかもしれませんね」
 それを聞いた愛那は、なんだかほのぼのした気分になった。
「それじゃあ子供の頃に三人でこの城で遊んだりなんかしていたんですか?」
「ええ。騎士としての修行を兼ねた遊びばかりでしたが、とても楽しく充実した日々でした」

第110話 恋愛話にはならない

 愛那は三人の子供の頃の話が聞きたくなって、ナチェルにお願いして部屋の中へと誘い、一緒のソファへと腰掛けた。
 そして愛那はたくさんの昔話をナチェルにしてもらった。
 初めてライツとモランと会った時の話や、一緒に勉強していた頃の話。
 三人で身分を隠し冒険ギルドに登録して魔物討伐をしていた頃の話。
 ライツの家族一人一人の人柄や、ハリアス、モラン、ナチェルの家族の話など。
 みんなの事が深く知れた気がして、愛那は聞いていてとても楽しくて嬉しくなった。
 テンションが高くなっていた愛那はそこで、ずっと気になっていた事をナチェルに思い切って訊いてみた。
「あの、ナチェルさんはモランさんと婚約しているんですよね?」
「はい」
「えっと、そういった話、訊いても大丈夫でしょうか?」
 遠慮しながら愛那が訊ねる。
(ナチェルさんの恋バナとか! 訊いていいのかわからなくて今まで言い出せなかったけど! ダメ? ダメかな?)
「そういった話……ですか?」
 そう言ってナチェルが難しい表情をして口を閉ざす。
(えっ? ダメだった!? でもナチェルさんとモランさんって一緒にいて仲が悪いわけじゃなさそうだし、むしろ通じ合ってる感じだし! あ、でも婚約者なのに二人して甘い雰囲気まったくないなぁ……なんて思ったりしたけど! 仕事の時とプライベートは違うとか、そんな期待なんかしたりして!!)
「話せないならいいんです! ごめんなさい! 調子にのっちゃって……」
 愛那の言葉の語尾が気落ちしてしまった為にナチェルが慌てる。
「申し訳ありませんマナ様! 違うんです! ……おそらくマナ様の期待に添えるような話をすることが出来ないだろうと思い、つい考え込んでしまいました」
「え? 期待に添うって?」
 その疑問にナチェルが少し困ったような表情で応える。
「つまり、恋愛話にはならないということです」

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