ごめんなさい。俺の運命の恋人が超絶お怒りです。1(121話~最終話)

小説
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第121話 称号

「えっ?」
 愛那はライツに言われた意味をすぐには理解出来なかった。
(マナの運命の相手は俺? ……俺? …………はい?)
 首を傾げた愛那をライツは息を呑んで見つめる。
「えっ……と? ん? いや、でも……えっ!? だって、言ってましたよ!? あの場にいた人達全員! 王様も、神託を受けた神官長も、本人だって当たり前のように【強き者】は王太子だって!?」
「……勘違いだ。その【強き者】の称号は、俺が持っているものだから間違いない」
「…………【強き者】の、称号?」
 そう呟き呆然とする愛那。
 そこで、ずっと見守っていたリオルートが声を上げた。
「いったん落ち着こうか。何故そんなことになったのか、話を整理した方がいい」
 その意見にモランとナチェルも頷く。
「そもそも、正確なご神託とは何だったのですか?」
 ナチェルが問い、それにライツが答える。
「……今回召喚された少女はこの国で一番【強き者】の【運命の恋人】である。二人の力を合わせれば、魔物を討伐することなど容易いだろう。というものだ」
「……成る程。だからそんな勘違いを」
 ナチェルが納得したように言うが、愛那にはまったく分からない。
「その【強き者】の称号がライツ様のものだって、何で誰も知らなかったんですか?」
 愛那の問いにライツが答える。
「それは……俺がずっとあるスキルを持っていることを秘密にしてきたからだ。それを教えていたのは兄さんとハリアスとモランの三人だけ。ナチェルは……」
 そこでライツがナチェルに視線を向ける。
「聡いからな。気づいていて黙っていてくれたんだろう?」
 その問いかけにナチェルが頷く。それを見て「え、そうなのか!?」とモランが声を上げた。
「子供の頃からおまえと同じように一緒にいて、気づかないわけないだろう。秘密にする理由もわかっていたしな」
「そ、そうか」
 そんなナチェルとモラン達から愛那に視線を戻すライツ。
「称号に関しては、伝える必要もないと思っていたから、その三人にさえ言っていなかったんだ。だが、まさかこんなことになるとは」
「……あの、その秘密にしているスキルって?」
 聞いていいのかと遠慮気味に愛那が訊ねる。
 それに対し、ライツは当然だと頷き口を開いた。
「今から一八六年前に異世界召喚で呼び寄せられた救世主。この国の初代国王、ロベリル・フォル・サージェルタのみが持っていたスキル、【鑑定】だ」

第122話 土下座

「【鑑定】って、幻のスキルといわれている?」
 愛那は先程から思考が追いつかないのか、どこかぼんやりとしながらライツとの会話を続けていた。
「そう。相手の能力などを文字化して知ることができるスキルだ」
(……はい、知ってます。私がこの世界で一人になった時、すごく欲しかったスキルだもの)
 あの時は、ステータスがわかれば、自分に何が出来るかがわかると思っていた。
(あ、そうか。だから……)
「だから、さっき私が使える魔法のことを知っていたんですね?」
「あぁ。初めて鑑定した時と違って、マナの使える魔法が増えていたから……」
 どこか気まずげなライツの表情を見て、愛那は首を傾げる。
(どうしたんだろう? それよりそれって、諦めてた私のステータスを知ることが出来るってことだよね? ぜひ! ぜひ教えて欲しい!)
 と、テンションが上がった愛那だったが(いやいや)と首を振って思い直す。
 それよりも今、大事な話の途中だった。
(えっと、あれ? ということは何? その鑑定で称号のこともわかるってことよね。…………じゃあ本当に? 私の運命の恋人って、あの王太子じゃなく、ライツ様だってこと!?)
 衝撃を受けたかのように身体を硬直させた愛那。
 その愛那の頭の中が急激に回転し始めた。
「マナ?」
 心配するライツにも気づかぬ様子で、だんだん青い顔になりながら思考し続ける愛那。
 しばらくして、愛那の身体がフラッと揺れた。
 そしてその次の瞬間「大変、申し訳ありませんでした──!!」と声を上げ、祭壇に向かって土下座をする愛那の姿があった。

第123話 恋のキューピット

「マナ!?」
「マナ様!」
 驚いたライツがすぐに片膝をついて愛那に寄り添い、その反対側はナチェルが駆け寄りライツと同じように寄り添う。
 しかし愛那は周囲に気を配るような精神状態ではなかった。
(最っ低だ……! 最低だわ私!! 何の非もない神様に対し、何てことを言ってしまったの!!)
 勢いよく再び深く頭を下げ、愛那が謝罪を声にする。
「神様! 誤解していたとはいえ、失礼極まりないことを言ってしまい、本当に申し訳ありませんでした!」
「落ち着いて下さいマナ様」
 優しく声をかけるナチェル。
「落ち着いている場合じゃないんです! ナチェルさん!」 
 ガバッと顔を上げ、ナチェルに向かい、涙目の愛那が訴える。
「私ってば……私ってば、神様のくせにあなたの目は節穴ですか!? とか言っちゃったんですよ!?」
「え?」
 …………。
 皆が唖然とする中、リオルートだけがサッと掌で口を覆い、己の声が漏れるのを防いだ。
「人の恋路を邪魔するなんて、神様だって許しませんよ。……なんて! 何様なの私!? 馬鹿なの!? 邪魔するどころか恋のキューピットじゃない! 神様なのに!」
 それを聞いたリオルートが、体を揺らしながら笑いをこらえる。
 モランは唖然としたまま。
 ナチェルは困った表情で愛那の背をさすっている。
 そしてライツは……。
(邪魔するどころか恋のキューピット? どういう意味だ?)
「ああっ! そうだ!」
 更に思い出した愛那が、祭壇に向かって声を上げる。
「撤回! 撤回を撤回いたします神様! さっきの撤回要求はなかったことにして下さい! 私の運命の恋人がライツ様なら何の問題もありません! むしろ大歓迎です! さすが神様! ちゃんとわかってる! 私の恋心なんかお見通しですね!」
(……!?)

第124話 恋の相手

(ちょっと待ってくれ……)
 ライツは愛那の言葉の意味を考える。
 自分に都合のいい解釈をしていないかと疑うが、疑いようもないくらい愛那の言葉はストレートだった。
(マナが俺に恋をしている。それ以外思いつかない。……だとしたら)
「マナ。マナには好きな男がいたんだろう? 俺の声にそっくりだという」
 だからこそ時間をかけて愛那に好きになってもらうつもりだったライツは、いくらなんでも心変わりをするには早すぎるのでは? と疑問に思った。
 その問いに愛那は目を見開いてライツを見る。
「えっ?」
 見つめ合う二人。しかし徐々に愛那の表情があわあわと崩れはじめた。
(私! さっきライツ様に告白したも同然のこと口にしてたよね!?)
 いっぱいいっぱいで言葉が出ない愛那を支えナチェルが口を開いた。
「ライツ様、誤解です」
「誤解?」
「ライツ様の声にそっくりだとういうマナ様の初恋の相手。おそらくその話はモランから聞いて知ったのでしょうが、私がマナ様自身に確認しました。恋人でも婚約者でもないそうです。しかもその相手には妻子がいて、マナ様とは一度も会ったことがないということでした」
「……会ったこともないのに声は聞いたことがあって、初恋の相手だというのは無理がないか?」
「…………」
 その疑問に対する答えをナチェルは持ち合わせていない。
「はい……」
 唯一答えを持つ愛那が力なく右手を挙げた。
「初恋の人というのは物語の登場人物です。私のいた世界では物語が絵になって動き、登場人物に声をあてます。声優という職業で、その人の名前は桂木孝貴といいます。ただのファンなので、好きだけど、恋ではないのです……」
(……うわ~ん! 説明下手すぎて、理解してもらえる気がしないっ!!)
「つまり……」
 その声に愛那がおそるおそる顔を上げてライツを見る。
「マナの恋の相手は……俺?」

第125話 ごめんなさい。俺の運命の恋人が超絶お怒りです。

 ライツのその表情と台詞に愛那は心臓を押さえて俯いた。
(今! びっくりして心臓が跳ねた! もおぉ! ライツ様の顔と声でそんな台詞は卑怯でしょう!? …………うわ~ん。また顔が熱い~! これが治まるまで、時間がかかるんだから勘弁してぇ!)
 顔どころか耳まで真っ赤にさせた、そんな愛那を見て、ライツは頬が緩むのが止められない。
(可愛い)
 ライツは手を伸ばして愛那の頭を撫でた。
「マナ。俺は子供の時に神託で自分に運命の恋人がいることを知って、ずっと探していたんだ」
 そう話し始めたライツに、愛那は俯いていた顔を上げる。
「そして、ずっと探し続けていた俺の運命の恋人が、異世界から来た救世主様と知った時は驚いた。……会うまでは、どんな子なんだろうと、楽しみだけど、不安でもあった。だけど噴水広場で初めてマナの声を聞いた時にはもう、可愛くて、愛しく思ったよ。そして、初めてその姿を見せてくれた時は、こんな可愛い子が俺の運命の相手なんだと、嬉しすぎて神様に感謝の言葉を捧げた」
 それを驚いた顔で聞いていた愛那が、怒った顔になり、ライツに掴みかかった。
「狡いですっ! 自分だけ神様に感謝の言葉を捧げるなんて! 私なんて、ずっと神様に喧嘩売るようなことばかり言ってたんですよっ!」
「ははは。ごめん」
「反省してないっ!? ライツ様? そんな嬉しそうな顔で謝られても許しませんよ! だいたい何ですぐに言ってくれなかったんですか!? 自分が運命の相手だって! 言ってくれれば無駄に悩まずにすんだし、神様にも失礼をしなくてすんだのにっ!」
「……それは、無理矢理異世界から連れて来られたばかりのマナには、時間が必要だと思ったからだ。レディルが暴言を吐いてマナを怒らせていたし、ただでさえ、救世主という重荷を背負わせているのに、運命の恋人なんて……。それに、俺はマナには元いた世界に好きな人がいると誤解もしていた」
 それを聞いたモランが(げっ! 俺のせいかっ!?)と青ざめる。
「まさかマナがもうすでに俺に恋をしてくれていたなんて思わなかったんだ。それでも、マナをここに連れてきたのは、神様に俺の運命の相手を紹介したかったからだ。いずれ口説き落とすつもりだったし」
「ッ! ……私だって、魔物討伐が落ち着いたら、口説くつもりでした!」
 張り合うかのような愛那の台詞にライツが破顔する。
 それを見た愛那が顔を赤くしたまま更に怒り出す。
「もおっ! ライツ様の責任でもあるんですから一緒に神様に謝ってください────っ!!」

最終話・幕間

「さすがは救世主様だと思ったよ。あんなに可愛らしいお嬢さんなのに、実に逞しい」
 一人掛けのソファに座り、クツクツと肩を揺らして笑うリオルート。
 テーブルには酒とグラス。
 正面に座るのはハリアス。
 ハリアスは残念だと言いたげに溜め息を吐いた。
「なんで私も誘ってくれなかったんですか」
「すまない。まさかあそこまで面白い展開になるとは私も思わなかったからな」
「しかし、安心しました。あのお二人がうまくいくことによって、今のこの国の現状の先に、平安な未来が期待できる」 
「確かにな……。だが、ずっとあいつを見てきた兄としては不満が残る。たった三日だぞ? 出会って三日で相思相愛なんて、ずるくないか?」
 そのリオルートの言いように、ハリアスは笑みをこぼす。
「リオルート様は昔から言ってましたね、恋愛ごとに関して冷めた態度を貫いていたライツ様に、本気の相手が出来た時が楽しみだと」
「そうだ。恋に悩み苦しむ弟を、兄として応援してやるつもりだったのに、まったく出番がなかった。ああ、残念だよ」

「ナチェル!」
 廊下を歩いていたナチェルが、後ろからモランに呼び止められ振り返る。
「何だ?」
「別に用という用はないが、あのお二人は?」
「部屋に入られた。おそらくまだ二人きりで話したいことがあるのだろう」
「そうか。しかしよかった。マナ様にはずいぶん驚かされたが……神様お墨付きのお二人だからな。きっと一年後には、魔物なんかに振り回されない平穏な日々が来ているだろう」
「……そうだな」
「もしそうなったら、俺たちも結婚も考えなきゃな」
 その言葉にナチェルが目を丸くしてモランを見た。
「いきなり何だ?」
「いや。どうせその頃にはあのお二人も結婚という形を取るだろう。そしたら俺たちも同じタイミングで結婚した方が側近としての仕事がやりやすいだろうと思ってな。おまえもマナ様付きをやめるつもりはないんだろう?」
「当然だ。……だがそうか。その通りだな。考えておく」
 そう言いい残して立ち去るナチェルの後ろ姿をモランが見送る。
(……聡いくせに、相変わらず男心にだけはポンコツだな)
 モランは深い溜め息をひとつ吐いた。

 愛那とライツの二人はバルコニーに並べられた椅子に座り、綺麗な星空を見上げていた。
「ライツ様。本当に大丈夫でしょうか?」
「何がだい?」
「やっぱり神様が怒っていないか心配で……」
 まだ気にしている愛那に、ライツが手を伸ばしてよしよしと頭を撫でる。
「大丈夫だよ」
「でも……」
「大丈夫。さっき【鑑定】で確認したんだが……」
「?」
「俺とマナに、新しいスキルが出来ていた。しかも同じものだ」
「スキル? どんなものですか?」
「【供給】」
「供給?」
「珍しいスキルだよ。昔、王族の双子同士が持っていたというスキルだ。同じスキルを持ったもの同士で魔力の供給が出来る」
「……ライツ様の魔力が少なくなったら、私の魔力をあげることが出来るってことですか?」
「そう。逆もまた然り。神様も怒っていたらこんなスキルを俺達にくれたりしないんじゃないかな?」
「それなら……いいんですけど……」
(神様からはっきり許すって言葉をいただけないから、まだやっぱり怒ってるんじゃないかなって思っちゃうのよね……)
 溜め息を吐く愛那。
「ところでマナ」
「?」
「マナのいた世界では、恋人同士になった男女は、結婚するまでどこまで許されるのかな?」
 からかうような表情のライツにブワッと愛那が顔を赤くする。
「ライツ様!」
 怒った愛那の頭を引き寄せ、ライツは素早くその頬にキスをした。
「マナは怒った顔も可愛いな」
(〰〰〰〰〰〰〰〰!!)
 愛那は触れられた頬に手を当て、沸騰するように熱が上がった顔を俯かせる。
 今のライツは何を言っても何もやっても上機嫌のままだ。
(うわ~ん! もうっ! 好きだけど、好きだから、嬉しいけど恥ずかしいんです!)
 愛那は羞恥に震えながら自分ばかり振り回されていることが悔しくて、ささやかだが反撃に出ることにした。

「マナ!? すまない! 調子に乗りすぎた! だから消えるのだけはやめてくれ!」

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