マカディラ大陸 -序章-

小説
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序章-1

窓一つ無い部屋の中央には円卓が置かれてあった。

入り口から見て一番奥に座る人物は北部白山大将、マルト・ハルス。
その左隣に西部黒山所属、シャルア・グース。
そのまた左隣に同じく西部黒山所属、リオン・ゼイル。

ここに入室したばかりの二人の人物。
一人は中央警備軍所属、ジェイス・ロンドゥ。
もう一人は東部警備軍所属、ツェン・カルビートである。

「お待たせしました。マルト大将」
「ジェイス、来たか」
親しげな微笑で挨拶を交わす二人。
ジェイスの右後方でツェンが黙礼する。
「ツェンも、遠い所をご苦労だったな」
「いえ」
リオンが席を立ちジェイスへと向き直る。
「お久しぶりです」
頭を下げるリオンに苦笑を返すジェイス。
「元気そうだな」
「ご心配おかけしました」
「私よりもシュウにだな。今度機会を作ろう。会ってやってくれ」
「はい。ありがとうございます」
腕を組んで片方の口端を上げたマルトが口を開く。
「個人的な話はまた後でだ。とりあえず座れ」
マルトの空いている隣の席にジェイス、続いてツェンが座る。
「初顔合わせもあるだろうが、各自の紹介は一度で済ませたいから全員が揃ってからにさせてくれ」

残りの空席は三つ。

廊下に敷かれた深緑色の絨毯を踏み歩く三人の姿。

「何で俺等こんなところに呼び出されたん?」
北部白山所属、ユーク・キャメル。

「極秘任務言うてたで、あのおっさん」
北部白山所属、カルフェ・ノード。

「カルフェ、一応あの人俺等の上司なんやからおっさん呼びはやめとけ」
北部白山所属、ラル・ムゾン。

廊下を曲がった先に扉の開かれた部屋が姿を見せた。

「遅い!」
彼等が部屋に足を踏み入れた途端、浴びせられる怒声。
その声に動じるでもなく三人はそれぞれの目線を合わせ、苦笑いをして見せた。
ラルが扉を閉める。
「遅ないでしょう」
「約束の時間まで余裕やん」
「自分の仕事押し付けといて勘弁して下さい」
この三人の直属の上司であるマルトは人の悪い笑みを浮かべ、空いている席を指し示す。
「ご苦労。そこに好きに座れ」
席に座っている皆の視線に態度を改めた三人はそれぞれ席につく。
マルトの正面にカルフェが。その右隣にユーク。左隣はラルが座る。
「よし、これで揃ったな」

序章-2

ここに集まった八人の男達。

壁に掛けられた時計の針の音が小さく時を刻んでいる。
その音に合わせるかのように視線を左から右へとゆっくりと動かし、一同の顔を見渡したマルトが口を開いた。

「血族直属部隊。この中で聞いた事無い奴はいるか?」

「あんたの下にいて、知らんわけないわ」
「血族者様直属の極秘部隊。まぁ、本当に実在してるか、真相は知らんけどな」
カルフェとユークが応える。
「おまえらはとりあえず黙っとけ」
マルトが右のてのひらを翻してそう言うと、二人の顔がわかりやすく不貞腐れた。
その様子にジェイスが小さく笑うと、ツェンとシャルアの二人の名を呼んだ。
「君達二人は、軍に籍を置いて短い。噂を聞く機会も少なかったと思うが」
その言葉を受けツェンが応える。
「詳しくは・・・・・・しかし少しだけなら。私の上司はマルト大将と親しい間柄のようなので」
マルトは何も言わず笑う。
「私は何も」
シャルアが応え、ジェイスが頷く。
「私とリオンはそれなりに、ですね」
微笑付きで言われたそれに、マルトが破顔する。
「おまえがそれなりに、じゃあ、困るんだがな」
「どういうことや?」
口を挟むカルフェ。マルトが目を細める。
「カルフェ、俺が血族直属部隊の一員だという噂、知ってるな?」
「せやから、あんたの下にいて知らんわけないやろ? ていうか、何度俺が聞いても真相をはぐらかしてきたくせに」
「極秘部隊の実状だ。当然、それを知る人間ってのは限られる」
「ふ、ん。じゃあ今、ここに集まっている人間は、これからそれを知る限られた人間になる。そういうことか?」
「先読みするな。まあ、つまりはそういうことだがな」
その言葉に、マルトとジェイス以外の皆の表情がそれぞれ動く。

「真相を言えば、血族直属部隊は七年前に壊滅している。俺と、ここにいるジェイスは、その生き残りだ」

皆の視線を受け、ジェイスは苦笑し肩を竦めた。
「マルト大将。正確には違いますよ。あの時私はまだ候補隊員で、正式なメンバーではありませんでした。しかもほんの少しの間、行動を共にさせてもらっただけです」
「お前ほどの優等生、逃すものか。メンバー全員一致で本決まりだったさ」
そこでマルトはその当時のことを思い出したのか、表情が陰った。
「・・・・・・内定手続きに間に合わなかっただけだ。俺達以外は全員死んじまって、血族直属部隊は壊滅したからな」

しばらくの静寂の後、ラルが疑問の声を上げる。
「部隊の立て直しはされなかったんですか?」
「そう簡単な話じゃあない。なんせ血族直属部隊は警備軍の管轄外だ。この大陸の最高権力者である血族者直属の部隊だからな」
「じゃあマルト大将が警備軍で好き勝手しても、軍全体が見ぬふりをしていたのは、はったりにかけられていただけ、ってことですか?」
ラルの言葉に苦笑いするマルト。
「おい、人聞きの悪いこと言うな」
「よく言うわ」
ユークが呆れ顔でそう言えば、その後をラル、カルフェが続く。
「こっちは散々軍の上層部の連中の煮え湯を飲まされた顔を見てきましたからね」
「あんたの下にいて、恩恵を受けていたこっちとしては、ぜひとも知っておきたい真実やったんや」
「いや、待ってくれ」
気軽い会話を交わす間にジェイスが軽く手を上げて制した。
三人の視線を受けジェイスは微笑する。
「はったり、ではない。血族直属部隊は壊滅している。それを知らないゆえの勘違いはあるだろうが、そんなことは関係ないんだ。実状、マルト大将は現在軍内部にいて、血族者と繋がりを持つ唯一の人物。そうですよね?」
皆の視線がマルトに移る。
「まあそういうことだ。問題児のおまえらの面倒みてきた俺を、もっと敬っていいんだぞ?」
ニヤリと笑うその顔に苦笑するラル。
イヤそうな顔をするカルフェ。
ユークはムッとした顔をして言い返す。
「問題児てなんや。俺らは間違ったことをしてきたことない。問題があるのは一部の腐った軍の上層部の連中やろ」
嫌悪を露にするユーク。
「わかってる」
マルトはそう言って片方の口端を上げた。
「だから、お前等はここにいるんだ」

序章-3

「血族直属部隊といっても、隊員全員が血族者と直接会えるわけじゃあない。前の部隊では隊長格が二人いてな、直接指令を受けていたのはその二人のみだった。だから俺が血族領に呼ばれたのは壊滅後。そこで俺は初めて血族者と会い、極秘任務を受けた」
「極秘任務?」
ユークが片眉を上げて問い、マルトがそれに頷く。
「そうだ。時間をかけて構わないから信用に足る人物を集め、新しい血族直属部隊を発足させること」

(・・・・・・それで、七年?)
(遅ッ!)
(サボり過ぎやろ!)

直属の部下三名の表情を読んだマルトがいい訳するかのように慌てて続ける。
「待て! その間俺も遊んでたわけじゃない。一人で直属部隊の仕事を受けていたのと同じだぞ!」
「へぇ。・・・・・・じゃあ偵察とか言って俺等に仕事おしつけ、しょっちゅう姿を消していたのは」
「さぼってたわけじゃなかったんか・・・・・・」
感心した顔で三者から見つめられたマルトがぎこちなく目線を外した。
「あぁ、まぁ・・・・・・な?」
三者の目が瞬時に胡乱に変わる。

(((このおっさん、やっぱり信用ならんわ!)))

「あの」
そこにずっと黙って話を聴いていたシャルアが困惑顔でマルトに問う。
「では、ここに集まっている全員が?」
「ああ。俺が集めた新血族直属部隊のメンバーだ」
「待って下さい」
シャルアと同じように困惑顔をしたツェンが声を上げる。
「私はまだ警備軍に入って間もない。軍とは縁の無い、ずっと別世界で生きてきた人間です。こんな・・・・・・どう考えても荷が勝ち過ぎます」
「同じです。何故俺が・・・・・・?」
リオンが気遣う目で隣のシャルアを見る。
「何だ? 俺の人選にケチをつける気か?」
腕を組んだマルトにそう言われ、ツェンとシャルアが身を硬くする。
「いえ、そんなことは・・・・・・」
口ごもるツェンにカルフェとラルが助け舟を出す。
「いじめんなよ、おっさん」
「そうですよ」
「気にせんでええで? そんなちっさいことで怒るような人やない。ただ、口が悪くて人をからかって遊ぶのが好きな、性質の悪い、まぁ、心の広いおっさんやからな?」
ユークが二人に対し優しい笑顔で上司をそう称すと、その上司の眉間に皺が寄った。
「・・・・・・微妙だな」

「それよりおっさん」
カルフェが軽く手を上げる。
「何だ?」
「知らん相手もいて、さっきから絡みにくいんやけどな?」
「マルト大将」
名を呼んだジェイスの意を汲み取り、マルトが頭を掻いた。
「あぁ。じゃあそろそろ、メンバーの紹介といくか」

序章-4

「まずは、ジェイス・ロンドゥ。歳は25。中央警備軍所属。その前は南部の大将をやっていた。戦闘能力者だ」

「その隣がツェン・カルビート。歳は17。東部警備軍所属。特殊能力者、音使い」

「ユーク・キャメル。カルフェ・ノード。ラル・ムゾン。三名同じく歳は19。北部警備軍、五山の一つ、白山所属。俺の下でそれぞれ一部隊の隊長を任せている。戦闘能力者だ」

「リオン・ゼイル。歳は21。西部警備軍黒山所属。特殊能力者」

「シャルア・グース。歳は16。同じく西部警備軍黒山所属。戦闘能力者」

「そして俺がこの部隊の隊長を勤めることになる、マルト・ハルス。歳は33。北部警備軍、白山の大将をやっている。戦闘能力者。それと、ジェイスには副隊長をやってもらう。だが隊長だの副隊長だのいった敬称は無しだ。わかっていると思うが、この部隊について全て極秘となる。どんな相手であれ内密にしてくれ。秘密にすることに罪悪感を抱く必要はない。大事な相手であれば余計に、やっかいごとに巻き込まれる可能性もあるんだ。わかるな?」

それぞれが頷くのを確認したマルトがジェイスとツェンに軽口をたたく。
「おまえらは特に、最愛の相手を手に入れたばかりだからな。大切にしろよ?」
「わかっています」
「あ、・・・・・・はい」
笑んで応えるジェイスと戸惑いがちに応えるツェン。
皆に説明するために補足するマルト。
「ジェイスは先月結婚したばかりだ。ツェンは三ヶ月前に婚約」
「へぇ」
カルフェが小さく声を上げる。
ユークとラルが目を合わせ、すぐに二人は慌てて祝福の言葉を上げる。
皆も同じように祝いの言葉を上げる中、ユークが遠慮がちにジェイスへと声をかける。
「ジェイスさん、お相手は、あの・・・・・・」
「ああ」
ジェイスが微笑んで応える。
「ユーク隊長とラル隊長には三ヶ月前エディリアが世話になった。ありがとう。彼女が君達のことを気に入ったようでね。仕事だったにもかかわらず、随分と楽しかったらしい。またぜひ会いたいと言っていたよ」
「いや、あ、ありがとうございます」
照れたように頭を下げて応えるユークと、こちらは笑顔で応えるラル。
「よかった。改めておめでとうございます」
「その時の事がきっかけで、ツェンの婚約者とも親しくなれて、友人が増えたと喜んでいるよ」
「え?」
「あ、もしかして。・・・・・・そうか、音使い候補のお嬢さんや」
「カリン嬢な」
ツェンが慌ててユークとラルに頭を下げる。
「私の方もその時の話は聞いています。ありがとうございました」
「いや、仕事やから・・・・・・なんか、なぁ? びっくりした。おめでとう」
「・・・・・・おっさん」
ユークがマルトを斜めに見る。
「まぁ、悪くないけどな? 企んどったやろ? 俺らが動くような任務ちゃうかったもんな? おかしいと思っとったんや」
「西部から中央へお嬢さんの護衛なんてな、普通俺等北部五山の人間が動く仕事ちゃいますもんね」
「そのおかげでおまえら、ジェイスの側近のシュウとも繋がりが持てただろう? ちなみにそのシュウ・ギタンには、この部隊の伝令を任せる機会が多くなるだろうから皆、覚えておいてくれ」
「シュウさんもこの部隊の一員やってことですか?」
ラルが問う。
「いや。あくまで部隊のメンバーはここにいる八名だけだ。シュウはもしこの部隊のことに気づいても黙っているだろうがな。それだけ信用がある男だ。ちなみに、ここにいるリオンとシュウとの繋がりも深い。リオンは数年前までシュウと共にジェイスの側近を務めていたからな」
「へぇ」

「リオンの家系は西部グース家の側近頭を代々務めていた。その後継者だったリオンの兄が亡くなりリオンは西部へ戻った。そのグース家の跡取りと云われていたのがここにいるシャルアだ。知っている者もいるだろうが、二年前、西部のグース領は返還された。二人の能力者申請はその後のことだ。この辺の話は諸々複雑だ。これから先、知る機会もあるかもしれないが」
マルトがシャルアを見る。
「大丈夫です」
表情の乏しいシャルアがそう応えマルトが微かに頷く。
「部隊には結束が必要だ。が、とりあえずは個人でやるべきことをしっかりやってもらえばいい。信頼関係を築くにはそれなりに時間がかかる。俺が将来性のある若い人材を集めたのもそういった理由が含まれてるってことだ」
「なるほど」
「仲良くせいっちゅうことやな」
カルフェの台詞にマルトが鼻で笑う。
「まぁ、簡単に言えばそういうことだ」

序章-5

ラルが軽く手を上げた。
「リオンさんの特殊能力はどんなものなんですか?」
「あぁ、それは知っておいてもらわないとな。リオン」
マルトに促されリオンが頷く。
「特定の相手のみですが、離れた場所にいてもその相手の声を頭の中で聞くことができるんです。あくまでその相手が自分に向けて話しかけてくる時のみなので、通常相手の考えていることがわかるといった能力ではなく、自分から相手の頭の中に話しかけることも出来ません。私がこの能力に気付いたきっかけは兄の死に際の声を聞いたからです。能力者の塔で実験しましたが、今の所それが可能だったのはこちらのシャルアとマルト大将だけです」
「塔の教授の話じゃあ、信頼関係のある相手ならいけそうな感じだった。ジェイス、おまえならいけると思うんだがな」
「じゃあ今からやってみましょうか」
そう言ってジェイスが瞼を閉じる。
しばらくの静寂、皆が見守る中リオンが小さく笑った。
「成功のようです」
リオンがそう言うとジェイスが目を開けた。
「届いたか?」
「何と言ってきた?」
「俺の側近をしている時にその能力に気付いてくれていたら、有効活用させてもらったのにな、と」
「その通り」
「申し訳ありません」
二人の気安い関係がみえてユークとカルフェとラルの顔が緩む。

「おまえら三人とツェンは今回が初対面だからまだ無理だと思うが、いずれは出来るようになって欲しい。今後任務遂行時に役立つこともあるだろうからな」
「一応今、試させてもらってもいいですか?」
ラルの提案をマルトが承諾する。
「そうだな、リオン頼む。じゃあツェンから」
ツェン、ユーク、カルフェと順に試したが失敗が続き、ラルの番が回ってきた。
「光の塔で百人近くと実験済みだからな、やはり教授の結論に間違いはないか」
腕を組んで見守っていたマルトがそういい終わると同時に、リオンの表情の変化に気付き声をかける。
「どうした?」
リオンが意外という表情でラルを見る。
ラルが目を開け首を傾げる。
「届きましたか?」
「ああ。名と北部出身で弟が二人いる、と」
「お!」
「えっ!?」
カルフェとユークが驚きの声を上げる。
「成功ですね」
ラルが微笑んで言うとマルトが大きく首を捻る。
「どういうことだ? おまえら初対面だろ?」
「ええ」
肯定する二人に頭を掻いたマルトが思案する様子をみせたがすぐにやめた。
「まあいい。一応教授には俺から報告しておく」

序章-6

「大将、俺等の戦闘能力について説明せなあかんの?」
「それ、説明とか面倒やで」
ユークとカルフェがその言葉通り面倒そうな顔を作って言えば、マルトが苦笑して頷く。
「ああ、それは追々知っていけばいい。じゃあ後はツェンか」
皆の視線がツェンに集まる。
「えらい噂になったもんな、音使いが現れたて」
「何年ぶりや言うてた? 二百年?」
カルフェが首を傾げ訊くとそれにラルが応える。
「あー、そう。二百年位ぶりらしいな。昔、血族者の一人が光石で創ったと云われている楽器、ティボラ。その音色で魔物を操ることが出来たらしいけど、そのティボラを使いこなせる演奏家、音使いがおらんくなって今や伝説」
「危険を伴うことからティボラは血族領に二百年余り保管されていたんだ。だからその間音使いが現れなかったのは当然の話だ」
「それやったら何で?」
マルトに疑問を投げるカルフェ。
「今や伝説の楽器とされているティボラの音色を聴きたいという、音楽好きの権力者達が働きかけた結果だろう。音使いの候補をみつけては、血族領へ嘆願書を送っていたらしいからな」
「なんや。やっぱり魔物を捕獲する戦力としてやないんか」
「そんなもんだろう。音使いの能力ってのは、あれば魔物捕獲の際の危険は減るし便利だろうとは思うが、なければないでなんとかやってきてるんだからな」
「それやったらツェン・・・・・・呼び捨てにさせてもらってええか?」
「はい。もちろん」
首を軽く傾げながらユークが訊き、ツェンが即答する。
「ありがとぉ。ツェンは警備軍に無理矢理入隊させられたってことになるん?」
「いえ、無理矢理では・・・・・・。私なりに考えた上で志願しました」
「うちは給料いいからそれ目当ての奴が多いけど、聞いた話じゃツェンの生家は西部で有名な音楽家の家系で、つまりは金持ちの息子なんやろ? 軍なんてよぉ入る気になったな?」
「不安は確かにありましたが、あの時は正直、演奏家としてやっていく自信がなくて悩んでいたんです。周囲が評価してくれても自分自身が納得できなくて、他にも色々・・・・・・」
「その辺の話はカリン嬢が絡んだ面白い話をビルから聞いているが」
そう言って肩を揺らし笑うマルトにツェンの顔が赤くなった。
「マルト大将!」
「すまん」
制止を込めたツェンのそれに、笑いを噛み殺しながら素直に謝るマルト。
「でもまあ、そこの二人はカリン嬢を知らない仲じゃなし、親睦を深めるためのいい話題にはなるだろう。が、長くなるしこの場では止めておくか」
ツェンがホッとした顔をし、ジェイスがそれを見て柔らかく微笑んだ。

「その話面白そうやから今後の楽しみにするけど、そのカリン嬢は今どうしてるん? 中央まで護衛したけど、その後どうなったか俺らの耳に入ってこーへんから気になってたんや」
「ああ、つい先日正式に二人目の音使いとして認定された」
「え!? そうなん?」
驚いたユークが難しい顔で唸る。
「俺、正直おめでとうて言われへんわ」
「俺等道中説得しまくってたからな。音使いになれば軍へ入隊することになる。危険や言うて」
「すみません」
ツェンが申し訳なさそうに言うと、ユークが苦笑いをしてみせた。
「いや、謝らんでもいいんやけどな?」
そこで腕を組んだカルフェがマルトに問う。
「音使いてこれから何人も出てくることになるん?」
「いや、それはない。ティボラ自体、二つしかないそうだからな」
「へぇ、そうなんや」
「音使いを実戦に加わせるのはまだ先になるだろうし、二人の安全面には相当気を配ることになるだろう」
「余程のことがない限り、応援要請が出ることもないでしょうね」
「そうだな。しかし一応ツェンは、現在いつでも実戦に出れるよう東部で鍛えてもらっている。ツェンの所属している部隊の管轄は北部寄りだから、何かあった場合すぐ対応できるしな」
「はい」
「ティボラは、さすがにここには持って来てへんか」
「貴重品だからな。今は東部の軍塔内だろう?」
「そうです。厳重に保管してあり、必要な時しか持ち出せないようになっています」
「盗難にあったらえらいことになるやろうからな」
「色々大変みたいやけど、いずれ音使いのお手並み、拝見させてもらうわ」
「楽しみやな」

「とりあえずメンバー紹介はこんなもんか」
そうマルトが言うと軽く手を上げたユーク、カルフェが口を開く。
「それじゃ、具体的に俺らに何をさせようってーのか、聞かせてーや」
「前血族直属部隊の壊滅についてもな」
皆の注目が集まったマルトが、フッと笑う。

「それはまた、追々だな」

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